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接遇を求められる理由&接遇スキルの磨き方

あなたは「接遇」という言葉をご存知ですか?「接客」との比較でよく使われる言葉で、「接遇」とはおもてなしの心を持って相手に接すること。
“おもてなし”というと、販売業やサービス業など「接客」を行う業界で必要なスキルと思われがちですが、最近では医療業界や教育業界など、今まで「士業」と言われてきた業種でも需要が高まっています。
さまざまな業界でコモディティ化が進む現代、プラスαのサービス面で他社との差異化を図りたいあらゆる業種が今、接遇スキルに注目しています。老舗百貨店として“一流のおもてなし”を追求してきたプロが、接遇とはどういうものなのか解説します。
今回、接遇についての解説をするのは……
接遇とは?
一般的には、「接客」の一歩先、より深めたものが「接遇」と呼ばれています。レストランで「いらっしゃいませ」とテーブルに案内し、注文を取って料理を運ぶのが「接客」で、オーダーの際に「お子様のお料理を先にお持ちしますか?」と聞いたり、素敵な笑顔で「ごゆっくりお楽しみください」と付け加えたりするような、プラスαの丁寧な応対が「接遇」とイメージすると違いが分かりやすいでしょうか。
では、一流のおもてなしを常とする百貨店では、どのような対応を「接遇」としているのか、エピソードを交えて紹介していきましょう。
百貨店の「接遇」

接遇にはさまざまな考え方がありますが、接遇という大きな円の中に、おもてなしがあり、接客があり、一番真ん中に販売があるととらえることができます。
目の前のお客さまの目的に対して対応していく「型」が接客であり、接遇とはそれをより深くしたマインド、目的のためではなくそのお客さまのために何ができるのか、あらゆることを考えて接していくアクションのことを指します。
三越伊勢丹では身だしなみ、所作、笑顔、言葉遣いなどのマナーは基本的な「型」として当然クリアしている前提で、心地よさにプラスαのおもてなしで「あなたから買いたい」「ここで買いたい」と思っていただけることが重要だと考えています。
いくつか、三越伊勢丹での事例をご紹介しましょう。
接遇の事例1:全国の天気まで把握!
京都店の和菓子売り場で、お土産をお買い上げになったお客さまから他県からの出張でこれから帰る、と聞いたスタッフは手提げ袋にビニールをかけました。その日の京都は晴れ。しかしお帰りの方面の地域は夕方から雨の予報でした。そのスタッフは毎日、当日の全国の天気図を頭に入れて店頭に立っているのです。目の前のお客さまだけでなく「未来のお客さま」のことまで考えた“おもてなし”。これが三越伊勢丹の考える「接遇」です。
接遇の事例2:「売上」よりも大切にしたいこと
これは伊勢丹のブライダルサロンでのエピソードです。お子さま連れの親子がウエディングドレスを熱心に見つめていたので、スタッフは「よかったら中で着けてみますか?」とお子さまにも通常の接客をし、ティアラやアクセサリーをご試着いただきました。
当然、その場ではご購入につながりませんが、お子さまにとってはいい思い出となり「いつかウエディングドレスは伊勢丹で買いたいな」と言ってもらうことができたのです。
売るためではなく、気持ちを汲んで差し上げること。通常の販売や接客の枠を超えた、なぜそのお品物を探しているのか、お客さまの背景に想いを馳せること。それこそが接遇だと考えています。
接客と接遇の違い
一般的には「ただ販売すること」が「接客」であり「丁寧におもてなしすること」が「接遇」と捉えられている傾向があります。しかし、私たちにとっては、接客=おもてなしであり、お客さまの側に立って考えるのは当然のことだと言えます。
私たちの考える接遇とは「マインド」と「型」の両輪でてきています。指先の整え方や発声の仕方、言葉遣い、所作だけでなく、企業として、お客さまとどういう関係性を築いていきたいのか、お客さまに対する心の在り方などの「マインド」が大事だと考えています。そこから接客に降りてくるとスキル、型も含めた話になっていきます。
スキルや型を覚える前に、お客さまのために自分ができることは何なのかを考えること、そこから発生するアクションが「接遇」と考えられるのではないでしょうか。
接遇が求められる業種・職種と
医療業界の事例

「接遇」は今、あらゆる業種で求められています。一般生活者の生活や人生に濃密にかかわっている業種、ご自身の業界・業種がコモディティ化していて人の力やサービス面で差別化しなければならない業種など、私たちには多種多様な職種の企業様からご相談が寄せられます。塾や学校の先生、士業と呼ばれてきた方々、会計事務所などのご依頼もあります。日本屈指のコモディティ化産業といわれている百貨店業界でトップを走っている私たちだからこそ、お伝えできることがあると思います。
医療業界も特に最近ニーズが高くなっています。業界ならではの接遇事例をいくつかご紹介します。いずれも私たちが研修を実施、サポートしている方々の事例です。
医療現場、病院における接遇の事例

健康診断など大勢の患者さまが並ばれる病院は決められた時間に一斉に受付を開始するため、40分程度の待ち時間が発生していました。指定された時間通りに来たのに待たされてしまう人はイライラが募って「対応が悪い」と感じます。
それがインターネットの口コミの低評価につながることもあります。そもそも前提として、人は病院に来たくて来ているわけではないので、顧客対応に慣れた方
でも医療の現場対応は難しいとよく言われます。
お待たせする場合でも、一辺倒に「少々お待ちください」ではなく「今◯番まで承っておりますので、あと◯分ぐらいお待ちいただけますか」と個別対応ができるかどうかで印象は全く変わってきます。天候が悪く電車も遅れて、受付時間に間に合わなかったお客さまには「今日はお足元の悪い中、電車も遅れて大変でしたね」と労うひと言が大切なのです。
接遇のマインドがあれば、当日の天気や交通情報を把握しておいたり、あらかじめ言葉を用意しておいたり、行動も自ずと変わってきます。
ドラッグストアや調剤薬局における接遇の事例

薬の販売よりもお客さまのお困りごとの解決に注力されている企業さまも増えてきています。
ドラッグストアで「疲れ目用の目薬はどこですか」と聞かれて「疲れ目だったらコレです、ドライアイだったらコレです」と商品軸でお勧めするのは、接客として間違ってはいませんが、私たちの考える接遇としては物足りません。
一歩踏み込み、なぜお疲れなのか尋ねて「実は老眼でパソコンが辛くて…」と話が広がれば、「辛いですよね」と共感し「疲れ目なら良いアイマスクもありますよ」と追加の提案をすることもできます。お客さまが言われて嬉しい言葉、親身になってもらえたと感じる対応へと指導していきます。
ある調剤薬局のスタッフは、「薬を飲むのが大変だ」と相談してきたお客さまにオブラートや服薬ゼリーをおすすめする一般的な対応のかわりに、どのようなときに辛いのかなどを伺い、唾液が出やすくなるマッサージをお伝えしたことでお客さまに喜んでもらうことができたと言います。
お客さまと会話することでプラスαの情報を得て、お客さまに寄り添う接遇の対応です。
社内でこのようなエピソードを共有することで、スタッフの間で、お客さまの役に立ちたいという気持ちが自然と高まり、自分たちがいる意味やスタッフのモチベーションにもつながります。
接遇を身に付けることで
企業が得られるメリット
社員に接遇教育を施すメリットとしては、CSR(企業活動における社会的責任)が高まる、口コミが良くなるなど、企業のロイヤリティが向上するだけでなく、社員同士のコミュニケーション能力やマネジメントスキルも向上してきます。
お客さまに対して気遣ったりおもんばかったりすることが自分の中に染み付いてくるので、社員同士のコミュニケーションにも自然とそれが表れ、円滑なコミュニケーションや信頼関係を築くことができるのです。
フランチャイズで運営している企業やたくさんのテナントを抱える商業施設、サービスの品質にバラつきが生じやすい業種には特に重要と言えるでしょう。扱っている商品は一緒だからこそサービスで差が出やすく、A店ではやってくれたのにB店ではやってくれないなどのクレームにつながりやすいためです。サービスのレベルを均一化できると、売上などの数字にも良い影響が出ます。実際に私たちがお手伝いした企業では、前年は300数十店舗だったところ翌年700数十店舗にまで店舗数を増やせたという例もあります。
また、社員自身のモチベーションアップや成長につながった例もあります。
ある日、インフォメーションカウンターに、何か困っていそうだが何もお聞きにならない客さまがいらっしゃいました。
通常の接客では「何かお探しですか?」と聞くところを、そのスタッフは「今日は天気が良くて、お買い物日和ですね」とお声がけしたそうです。すると、そのひと声がお客さまの心を開き「そうなの。そう思って来たのだけれど、何を買ったらいいのか分からなくて。贈り物をしたい相手がいるのだけど」とお困りごとを教えてくださり、会話から得た情報を元に洋菓子の売り場をご案内しました。
そのお客さまは、お帰りの際に「あなたのおかげでいい買い物ができたわ」と立ち寄ってくださったそうです。お客さまのためにアクションを起こしたこと、それを喜んでいただけたこと、こういうこともできるんだ!という経験が、本人の自信やモチベーションにつながるのです。
接遇を実現させるための流れ
接遇を実現させるためにはどのようなステップを踏めば良いのか、お客さまがお店の前を通るところから見ていきましょう。
ステップ1:興味・関心を持ってもらう

まず大事なのは、興味関心を持ってもらうことです。入口として、商品が見やすく陳列されているとか、過ごしやすそうな環境であるとか、入ってみたくなる、入りやすい、心地良さそうな空間づくりが重要です。私たちはVMD(Visual Merchandising)と呼んでいますが、当社の商品陳列はかなり緻密に考えられているので、これらの環境作りからご相談されることもあります。
ステップ2:第一印象を良くする

次は、立ち姿、身だしなみ、笑顔などが感じ良く、入ってみたいと思わせるかどうか、自分のことを話してもいいかどうかです。第一印象を良くする、基本の「型」はしっかりとマスターしておきましょう。業種やTPO、お客さまの要求に合わせて使い分けができるとベターです。
ステップ3:マニュアル通りではないお声がけ

そして、お客さまへのお声がけ、ファーストコンタクトです。ここで大切なのはマニュアルではなくコミュニケーション、個別対応。この部分がマニュアル化されていて、つまずくケースが多いのです。 「いらっしゃいませ。こんにちは」というワンアクションをどのように起こせばよいかは、お客さまごとに変わってきます。相手の状況を観察して、想像してから接客の入口に立つことが大切です。マニュアル通りのお声がけは、相手に刺さりません。仕事だからマニュアルだから声をかけているのか、私のことを考えてくれているのか、このスタッフに心を開いていいのか、お客さまは少しのやりとりの中で敏感に感じ取ります。
ステップ4:会話の中からニーズを探る

ここからは、お客さまのご要望を聞いて、会話の中からニーズを探るフェーズになります。言葉遣い、所作など、お客さまの期待値を下回らないよう、ここで接客スキルを発揮しましょう。 ここでは、会話の中からお客さまの本当のニーズを引き出すのが接遇スキルです。このお客さまのご要望を「聴く」ということを、何のためにやっているのか理解のできているかどうかで結果も変わってきます。目的意識をもってお客さまと会話し臨機応変に対応することが望まれます。
百貨店クオリティの接遇を実現するには?
~プロのアドバイス~
今は、物を売る時代からコミュニケーション・関係性をつくっていく時代。百貨店の研修でも、まず「百貨店は物を買うだけの場所ではなく、お客さまの想いや人生を実現できる場所である」とマインドの話から始めて、そこから知識やスキルの話をします。
マインドは簡単にルール化やマニュアル化できるものではなく、販売の数字にも表れにくいものかも知れません。ですが、お客さまに心地よく豊かな時間を過ごしていただき、「あのお店がいい」「あの人から買いたい」と選ばれるため、信頼や人間関係を築いていくためには必要不可欠な要素なのです。

より一層お客さまに寄り添う、より一層想像力を鍛えてお客さまの心を動かす、感動するおもてなしを目指す——それが三越伊勢丹の考える「接遇」です。
接遇スキルを磨くために研修では、ロールプレイングやデモンストレーションで「体感してもらうこと」、座学などで「知識を得ること」を企業さまの求める接遇の形になるようバランスよく組み立てています。後日フォローアップ研修のように振り返りも欠かせません。
接遇は、時代に即したアップデートも必要です。何度もシミュレーションしながら、繰り返し講習を行っていくことで、マインドの醸成とスキルの増強を行っていくことが重要です。
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株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ
接遇研修担当者
「私たちの考える接遇はマインドとスキルの両輪。おもてなしのマインドがあって初めて『型』やスキルが活かされてきます」