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接客業でのクレーム対応術 ~プロが教える6つのポイント~

接客業でのクレーム対応術 ~プロが教える6つのポイント~

SNSの普及などにより、お客さまの「生の声」が世の中に発信される機会も多くなってきました。クレーム対応に失敗した結果、その情報が広まり炎上してしまうと、企業単位でのダメージを招いてしまうケースもあります。
クレームが発生した時に、あなたの会社ではきちんと対応できていますか? クレーム対応の良し悪しは、会社の評判を左右します。最近では、企業競争が激しくなっているからか、接客・サービス業だけでなく、銀行などの金融機関や病院などからもクレーム対応講座の要望が増えています。今後、さらにさまざまな職種で需要が高まりそうなクレーム対応について、百貨店として豊富な事例を持つ接客のプロの視点で解説します。

今回、クレーム対応についての解説をするのは……

株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ
クレーム対応研修担当者

「クレーム対応=苦情処理ととらえず、対人スキルとして身につけておくと会社内や会社外、家庭や隣人関係など、あらゆる人間関係がスムーズに行きますよ」

適切なクレーム対応が会社の利益に

クレームは、お客さまの期待値に対して、商品やサービスが下回った場合に発生します。期待しているからこそクレーム(ご意見)を伝えてくれるのです。 また、実際にクレームを伝えてくれる方は不満を持った人の4〜5%で、氷山の一角にすぎないと言われています。残りの約95%の人は、不満があっても黙って離れていくだけだということです。
直接的にはクレームを伝えない潜在的なサイレントクレーマーは、逆に口コミやSNSへの書き込みで不満を拡散しやすいので、こちらの方が厄介です。クレームを声に出してくれたお客さまにきちんと対応することは、同じような不満を持っているサイレントクレーマーにも対応することになり、ひいては会社のブランドイメージも向上し、利益につながります。

クレームはお客さまの声、期待値のあらわれと捉え、まずはきちんと相手の話を聞きましょう。何を期待されているのか、何を言いたいのか、真摯に聞くことが大切です。お客さまの声であるクレームを社内で共有し、サービスや商品の改善に活かしましょう。また、ここでしっかりと対応すると信頼を得てファンになってもらうこともできます。

また、社員にクレーム対応をスキルとして身につけてもらうことは、特に一次対応を任されることの多い若手の離職率が下がるというメリットもあります。今の若者は、親にも先生にも怒られた経験がほとんどないというケースも珍しくないため、お客さまに目の前で大きな声で叱られるだけで大きなストレスとなります。さらに、何もわからず怒鳴られるだけでは仕事が嫌になってしまいます。会社として、クレーム対応の方策がしっかり取れていれば、もしもの時にも落ち着いて対処でき、一次対応を安心して任せることができます。

やってはいけない!
クレーム対応のNG行為

クレーム対応は一次対応が大事。一次対応の際に決してやってはいけないNG行為があります。下記の4つのポイントに注意しておきましょう。

1.相手の話を遮らない

相手の話を遮らない

自分の話を遮られるのは誰でも嫌なものです。ましてクレームを言っている方は「伝えたいことがある」のです。お話を伺っていてちょっと違うなと思っても、話の途中で「でもそれは……」と反論せずに、まずは思いや伝えたいことをすべて吐き出してもらいましょう。その話を途中で遮ると「いいから話を聞け!」とヒートアップさせてしまいます。

2.相手のクレームを疑わない

相手のクレームを疑わない

信じられない内容でも「本当ですか?」と聞き返したり、クレームの内容を否定したりしないようにしましょう。疑われたと気分を害する要因になり、火に油を注ぐことになってしまいます。

3.「うちは悪くない」と突っぱねない

「うちは悪くない」と突っぱねない

いただいたクレームに対して、最初から自分たちに非はないと突っぱねてしまうと、うちは悪くない=お客さまが悪いとなってしまい、「せっかく注意してあげたのに悪者扱いされた」と怒りが増してしまいます。

4.言われてもいないのに上司を呼ばない

言われてもいないのに上司を呼ばない

お客さまに何か言われたらすぐに「上の者を呼んで参ります」とするのは、一見丁寧なようですが実はNG行為です。純粋に注意点を伝えたかった、ちょっと聞いてもらえればよかったお客さまが「あなた逃げたでしょ」と怒りに変わってしまったり、「私はクレーマーじゃないのに!」と気分を害して二次クレームを引き起こしてしまったりになりかねません。すぐにクレームだ!大変だ!と慌てて大騒ぎしないことが大切です。

プロが教える!
クレーム対応の6つのポイント

クレーム対応には大きく2種類、クレームが起きた後に行う「対処法」と、再発・発生を防止するための「予防策」があります。前述のNG行為を踏まえた上で、それぞれに必要な一次対応におけるクレーム対応のポイントをまとめてみました。

<対処法>
1. まずは部分謝罪

最初にお詫びの言葉を伝えます。ただ、事実確認をしていない段階での不用意な「申し訳ございません」はNGです。全面的に非を認めたことにもなってしまうので、部分的に謝罪する形をとりましょう。
「お待たせしてしまい…」「説明が不十分で…」など、お客さまが何に対して怒っているのか、目の前のお客さまの感情(悔しい、悲しい、裏切られた、恥ずかしい)という裏の気持ちを大事にして、それに対して謝ります。
ただ「申し訳ございません」と謝るよりも、「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」と部分的に謝罪すると、相手の気持ちに寄り添って、おもんぱかっていることが伝わりますし、感情的な相手のクールダウンにもつながります。ただ「すみません」「申し訳ございません」だけを繰り返してもお茶を濁しているようにしか受け取られず、「何に対して謝っているんだ!」「心がこもってない」と怒らせてしまう結果にもつながりかねません。

2. 傾聴しながら事実確認

親身になって聞く姿勢を見せることで、誠意を示しながら、事実確認をきちんと行います。言う労力と時間を使ってクレームを入れてくれているので、そこは真摯に受け止めましょう。相手が興奮・炎上している時ほど冷静に聞かなければなりません。お客さまが興奮されている時ほど冷静になることが大切です。興奮されている時は話があっちこっちに飛びやすくなりますが、傾聴はお客さまの気持ちを落ち着ける意味でも有効です。お客さまがどんな気持ちになられたのか、クレームはありがたいご指導として聞きましょう。

3.共感する。質問と要約を重ねる

お話を聞いている姿勢を示すのに有効な手段としては、メモを取る、適度な相槌を打つ、クッション言葉を挟むなどがあります。
メモを取りながら聞くと大事な話として扱われているように感じられますし、相槌や頷きを挟むと、共感していること、気持ちに寄り添っていることが伝わります。
さらに、傾聴だけでなく質問と要約を重ねると、より「きちんと話を聞いてくれている」ということが伝わります。その際には、「差し支えなければ」「失礼ですが」「恐れ入りますが」「あいにくですが」「もしよろしければ」といったクッション言葉を使うと、言葉の衝撃を和らげてくれます。覚えておいて日頃から使えるようにしておきましょう。

<予防策>
4. 日頃からの体制づくり

実際にクレームが起きた場合、どのようにクレーム処理をしているのか、責任者として誰が出るのか、日頃から取り決めておきましょう。クレーム対応をしていたらお店が回らなくなるようでは問題です。クレーム対応や謝罪が必要になった場合、すぐに謝りに行ける体制を整えておきましょう。また、一次対応でできること、できないこと、その権限についても、社内で基準を作っておくと対応もスムーズです。

5. 想像力を高める

クレームの予防には「想像力を働かせる」ことが重要です。店頭の床にコードが出ているのを見て、それがクレームにつながるかもしれないという可能性が考えられるような想像力です。
お客さまを長くお待たせする、お客さまの列の横入りを店員が放置する、プレゼントの値札を取り忘れる、衛生的な身だしなみができていないなどがクレームにつながることは、想像力を働かせればわかります。時計をチラチラ見ているお客さまにはできるだけ迅速に対応したり、クリスマスなど特にご贈答品を多く扱うシーズンは値札の取り忘れがないように普段以上に厳重にチェックするなど、常にお客さまの立場に立ち、何に不快・不満を感じるか、想像することでクレームをタネのうちに摘むことができます。
また、言葉遣いや所作など、本人は悪気がなくても何かがお客さまの気に障ってクレームになってしまうこともあるので、クレームが起きそうなポイントをチーム内でお互いに指摘しあえる環境づくりも大事です。

6. クレームはホウレンソウ(報告・連絡・相談)で共有する

クレームを担当者一人に抱えさせないことも重要です。一次対応の担当者が一人で全部終わらせる体制は、決して良いとは言えません。必ず上司や仲間とホウレンソウ(報告・連絡・相談)を徹底し、共有していきましょう。再発防止にもサービス向上にも役立ちます。
報告の際、一次対応者は「自分は悪くない」と自己保身に走ったり「大変です!大変です!」と騒ぎ立てたりするばかりになってしまうケースもありますので、事実だけを報告するように日ごろから指導しておくと効果的です。結論から先に伝えるなど、報告の仕方を決めておくと良いでしょう。
報告の仕方を徹底させておくと、お客さまへの事実確認の質も向上します。責任者も、報告を鵜呑みにせず、事実をきちんと把握するよう努めましょう。

プロのクレーム対応事例

私たち三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズの強みは、実際に店舗で経験を積んできた講師陣であることです。百貨店という現場を持っていて、リアルな具体例や経験談をたくさん持っていますし、それが参考になったと喜ばれることが多いです。

お客さまからクレームが入ったら、クレーム対応の6つのポイントの中でお話しした通り、まずは「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」と部分謝罪から入ります。いつ、誰が、どんな風に、それに対してどう思ったのか、メモを取りながらしっかりと傾聴して対応策を探ります。お客さまが興奮されていて、他のお客さまのご迷惑になりそうな時には別室へお連れしてしっかりとお話を伺います。
クレーム対応の基本をしっかり身に着けている担当者であれば、大抵のクレームはこのように真摯に傾聴するだけで解決できます。

電話でのクレーム応対では、折り返しかけさせていただきます。対応する人を変える、時間をおく、というのは非常に有効です。上の人間は電話対応者の近くにいて、内容を聞きながら、こじれてきたらメモで指示を出すこともあります。

お客さまの家まで伺って謝罪するケースもあります。クレーム対応がファンづくりにつながるとお話ししましたが、実際に、適切なクレーム対応が身に付いている担当者が謝罪に伺ったところ、真摯な態度がお客さまの気持ちを和ませ、その後の良い関係を築くきっかけになったというのは珍しいことではありません。謝罪に行った先でお見合い話を持ちかけられた、などという話もあります。

悪質なクレーマーには
どのように対応すれば良いか

「誠意を見せろ」と言われると、何を誠意として望んでいるのかはケースバイケースです。無理難題を言っているだけのモンスタークレーマーなのか、普通のクレームなのか、その見極めは容易ではありません。

実のところ、最終的に金品を要求してくるような悪質なクレーマーはごく稀です。どう対処するのか、どこまで店頭で対応するのか、お客さま相談室などを設けているところであればそちらと連携していくなど会社として方針を定めておくと良いでしょう。

例えば私たちが悪質なクレーマーに遭遇した場合は、百貨店には法務担当もいますし、弁護士にも一報入れて、近隣の百貨店や系列店舗と情報共有します。すると、本当に悪質なクレーマーの場合は大抵、他店でも同じようなことやっていることが判明します。

悪質なクレーマーは事実確認をしていくと必ず話のつじつまが合わない部分が出るので、会話のメモや電話の録音など、記録は必ず残しておきます。会社として、どこまでサービスでやるのかを明確化しておいて、ある一線を超えたらここからは弁護士や警察に相談するとあらかじめ定めておくと良いでしょう。 時によって対応が変わるのは付け込まれる要因になるため、あくまでも会社としてどう対応するかという方針と、毅然とした対応が必要です。

責任者は、法律の知識をある程度持っておくのも良いでしょう。クレーマーから電話で怒鳴られたり、不当に金銭を要求されたりした際に、必要以上におびえたり慌てたりすることなく「そのようなことを言われますと法律に触れますので、おやめになった方が……」といさめるなど、冷静に対処できるようになります。

クレーム対応力を付けるには
~プロのアドバイス~

クレーム対応力は通常、経験の積み重ねで磨かれていくものであり、座学で聞かせるだけでは身につきにくいものです。「自分ごと」として落とし込むことが重要なので、三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズでは、座学に加えてペアワークやグループワークをしたり、映像を見て考えてもらったり、ロールプレイングを交えた研修を行っています。

また、より実践的な研修を行うべく、研修内でVRを使用する場合もございます。使用するVRでは、クレームを受ける側とクレームを言う側を体感することができます。相手の立場(クレームを言っている側)に立つと、対応者の言葉遣いや視線の動きやしぐさなど、どんな対応をされると不快になるのかを実感できます。

クレーム対応は、一次対応、その上の責任者の対応、さまざまな立場でのスキルが必要です。クレーム対応スキルが身につくと、さまざまな場面で人に対する適切な接し方ができるようになります。チームビルディング、ハラスメント対応などの場面でも活用され、部下への注意の仕方や叱り方、上司への報告の仕方、社員同士の情報伝達も上手になります。接客業に限らず、社会人として身につけておきたいスキルといえるでしょう。

サービス向上研修「クレームの初期対応」の研修内容例はこちら

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